濃度
そう。
やっと気付いてくれたんだ。
俺が一番、栞を大切にしてるって事に。
時間かかったなぁ。
何回ぶつかって、何回抱き合って、いつまで繰り返すんだろうな、俺たち。
え?
もう大丈夫って?
これが最後?
ははは。
お前、こないだもそう言ってたけど?
最初は誰だったっけ?
あいつだ、あいつ。
大学のサークルで一緒だったサトシだよな。
まさか、あんな身近に二股かけられてるなんて思いもしなかったよ。
あの時は、『どっちか一人なんて選べなかった』とか言ってたっけ?
よく覚えてるだろ?
だって、そんな理不尽な話ねーよ、って思ったもん。
でもさ。
本当に栞の事好きだったから、友情破綻してでも手に入れたかったんだ。
次は職場の上司だったっけなぁ。
おまけに、相手に奥さん居たんだろ?
欲求不満か?
まぁ、年の功っていうかさ。
あの人が持ってる包容力なんて、あの時の俺じゃ、かないっこないって思ったし。
就職したばっかりで不安だった時期にさ。
あれだけ頼れる人にだったら、惚れてしまっても仕方ないかな、って思ったし。
俺も、頼れる女の先輩と、道を踏み外しても良かったかなー。
ん?
なんだよ、其の目?
お前、自分がした事棚に上げてさ、嫉妬とかすんの?
自分がされること想像しただけで嫌なら、自分もするのやめてくれる?
あ、また泣く。
俺がいじめてるみたいじゃん。
あー…間違ってないか。
でも、やめない。
で、今回は、あれだな、後輩の…ナントカ君だ、ナントカ君。
え?
サワグチ君?
別に名前なんて知りたくねーよ、お前もそういうとこだけしっかり返事してんじゃねーよ。
仕事に余裕出てきてさ。
可愛い後輩も出来て?
そんで、すぐ手ぇだしたりするかね?
そんなつもりじゃなかったの、って…栞、その言い訳はもう聞き飽きたよ。
そんなにフラフラしてさ。
でも、戻ってきて。
なんで?
もう、俺なんか捨てたら良いじゃん?
金持ちでもなんでもないし。
お前が好きな人の所に行ったら?
私のこと捨てるの、ってさ。
其れ、こっちのセリフだから。
え?
やっぱり必要だと思ったから、って?
ははは。
お前、浮気しないと、俺の必要性確かめられないわけ?
いいよ。
解ったよ。
俺も言い過ぎた。
お前じゃなきゃ駄目なんだ。
俺の隣りは、栞だけの場所だって決めてるから。
安心して戻ってこいよ。
ところでさ、栞。
涙って。
流す時の感情によって、味が違うらしいんだ。
悔しい時や、怒った時に流す涙は、凄く濃い味がするらしいよ。
悲しい時は薄い味。
涙を流す量によって、濃さが変わるらしいんだ。
無理やり出そうとして出した涙っていうのは、濃い味になるそうだよ。
つまりね。
嘘泣きの涙って、凄くしょっぱいらしいんだ。
さっき。
キスしただろ?
仲直りのしるしの、長い深いキスのあと。
涙を拭き取るように、少しなめたの、気付いた?
しょっぱいね、しょっぱかった。
俺さ、もう、栞の事、信じられないよ。